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福岡家庭裁判所 昭和39年(少イ)14号 判決

被告人 徳峰茂松

星山博俊コト

被告人 李承淵

主文

被告人両名は、各罰金三千円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金三百円を一日に換算した期間、当該被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となる事実)

被告人徳峰茂松は、福岡市比恵新町二丁目七番地に工場を有し労働者を使用して金属回収業並びに伸鉄業を営んでいるもの、被告人李承淵は、徳峰被告人の義弟にあたり同被告人に雇われ、右金属回収業並びに伸鉄業における労働者の監督指導経営全般にわたり総括運営しているものであるが、被告人李は、被告人徳峰のため前記伸鉄業の工場において、法定の除外事由がないのに、昭和三八年三月四日頃労働者浦永忠が三〇馬力電動機によつて運転する切断機を用い厚さ九ミリメートルから一二ミリメートルの鋼板切断作業をするに際し、満一八歳に満たない労働者である金○司(昭和二一年二月二五日生)を右切断機後方で切断された右鋼板を掻き出す作業に使用し、以て同人を危険な鋼板加工の業務につかせたものである。

(証拠の標目)

一、浦永忠、矢吹巖の司法警察員、労働基準監督官、および検察官に対する各供述調書

一、被告人両名の司法警察員および検察官に対する各供述調書、被告人李承淵の当公廷における供述

一、医師山田武二郎作成の死体検案書、金○司に対する福岡市長作成の登録証明書

一、労働基準監督官柴田徳太郎、司法警察員、および検察官作成の各実況見分調書(添付の図面および写真を含む。)押収してある証第一号鉄片の存在

(法令の適用)

被告人李承淵について、労働基準法第一一九条第一号、第六三条第一項、第四九条第一項、女子年少者労働基準規則第八条第一九号

被告人徳峰茂松について、労働基準法第一二一条第一項及び前掲各法条

被告人両名について、罰金刑選択の上刑法第一八条

猶被告人両名は、本件被害者金○司は、切断機の後方で製品である切断鋼板および鉄屑を鉄棒によつて掻き出し、加工製品と前示切断屑を整理するにすぎない極めて危険性の少い業務に従事していたものであるから、前示労働基準規則第八条第一九号にいう「鋼板加工の業務」にはあたらない旨主張するので、この点について考えてみる。

すなわち、前示第一九号と同旨の同条第一〇号および第二五号には特に補助作業の業務について除外する旨の明文があるのに拘らず前示第一九号に関しては右除外例に関する規定がないのであるから、補助作業についてもこれが包含されるものと解するを相当とするのみならず、前顕各実況見分調書などの証拠を綜合すれば、本件切断機による鋼板加工業務は、切断機前部において刃部に切断鋼材を作用せしめる主たる労働者と、切断機後部において右切断加工された製品鋼材および加工工程途上に生じた鉄屑を鉄棒により掻き出し整理する補助作業に従事する労働者とが必要とされ、これらの労働者は相互緊密な連絡のもとに作業するのでなければ加工製品が切断機前方に反発飛散し不測の危害を及ぼす危険性の存在を窺知するに十分である。してみれば前示第一九号にいう「鋼板加工の業務」は、本件補助的業務を含む全工程を指称しているものといわねばならず判示のような年少者の就労は禁止されていることが明らかであるから、被告人等の論旨は、いずれも採用の限りでない。

よつて主文のとおり判決する。検察官 秋山勝太出席

(裁判官 厚地政信)

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